奈良県奈良市 小児歯科・一般・矯正・審美・インプラント・無痛治療の林小児歯科

8020特集

健康寿命世界1

有名な英医学雑誌ランセットにのった発表によれば、世界188カ国を調べた結果「健康寿命」は男女ともに日本が一番でした。日本の健康寿命は、男性71.11歳、女性75.56歳。ところが平均寿命はおよそ男性80歳、女性86歳なので、健康寿命と平均寿命の差、約9年を不健康で過ごすことになります。これを短くして健康寿命をさらにのばすカギとなるのが、自分の歯をできるだけ多く残すことです。今年のカレンダーは8020特集を1年間お読みください。

 

8020の意義とは?その実現に向けて 

8020(ハチマルニイマル)とは、80歳で20本以上歯を残そうという目標のことです。平成元年に厚労省が提唱した当時は、お年寄りになると歯が抜けるのは当たり前と思われていました。8020運動の甲斐あってか、2006年の調査では8020達成者の割合が25%、2011年には40%となりました。それと呼応するように平均寿命ものびてきました。食べることは生きることです。いい歯は、いきいきとした豊かで活力に満ちた人生をおくる基礎といえます。8020のためには、ムシ歯と歯周病の2大口腔疾患を防ぐためのセルフケアとプロケアがとても大切です。

 

口は関所  

口は、食べ物が身体に入る最初の器官です。大きさ、味、硬さ、噛みごたえなどを確認しながら、食べ物を安全で効率よく身体に取り入れるために、関所として働いて全身の健康と直結しています。多くの研究でも、口の健康と長寿の関係が証明されています。日本人2万人の65歳以上の方を対象にした調査では20本以上歯が残っている人にくらべ、10~19本の人の死亡率は1.3倍、0~9本では1.7倍にのぼります。また、咀嚼できる食品数が15品目中1品多いと4.4%寿命が延び、現在歯数が1本多いと1.5%寿命が延びると計算されました。

 

運動機能と咬み合わせ  

スポーツ選手は熱心に歯のケアをしている人がたくさんいます。しっかり噛みしめると大きな力が発揮できるのです。さらに歯の咬み合わせは頭や腰の位置を安定させ、バランスをとりやすくします。高齢者での調査では、よく噛めるかたほど食事・更衣・移動・排泄・入浴など様々な日常生活動作がスムーズにできるという結果が出ました。また入れ歯で咬み合わせを回復すると日常生活動作の改善ができます。そして乳幼児期は成長過程ですから一生よく噛めるようになるための大切な準備期です。お口の健やかな成長発育を周りで支えていきましょう。

 

バランス維持と転倒骨折の予防 

高齢になると運動機能が低下し、ちょっとしたことで転びやすくなります。転倒骨折で寝たきりになることも珍しくありません。噛みしめる力と転びやすさには関係が深いことがわかってきました。噛む時は、口の周りや顎の筋肉だけではなく、なんと首筋、胸、背中にある12種類もの筋肉が働いているのです。入れ歯を入れている時は、はずしている時よりも歩幅が広く、歩くのが速く、リズムも安定しています。良い歯で活動的に過ごしていただきたいですね。

 

噛むことと脳  

8020は脳の健康と深い関係があります。噛まなくなると記憶をつかさどる脳の海馬という部分が萎縮することが、ネズミの実験と70歳以上の高齢者の検査で証明されました。脳の活性化を表す脳血流量は、手や指の運動よりも、咀嚼で増加し、また歯ごたえのある食べ物ほど効果的です。とくに、脳の神経の中の満腹中枢(肥満防止)、 孤束核 (味覚)、 海馬(記憶)、 扁桃体 (嗅覚やストレスに関係)、 室傍核 (自律神経の中枢)などが活性化しています。さらに、唾液の中に脳が若返る成分がありますので、よく噛んで唾液を出していくことも大切です。

 

栄養摂取~低栄養から寝たきりへのスパイラルを防ぐ

私達の身体は食べたもので出来あがっています。さまざまな栄養のある食べ物を十分摂って健康な身体を維持するには、お口が健康でなければいけません。歯が悪くなると、咀嚼能力の低下→栄養素摂取量の低下→身体・精神機能の低下→活動量・体力の低下→生活の質の低下を招く、という悪循環に陥りやすくなります。よく噛むことは胃腸の負担を軽くするためにも大切です。いろいろな噛みごたえの食物を咀嚼して食物本来の美味しさを味わってください。

 

誤嚥性肺炎予防~口腔ケアの威力   

歯ブラシは命を救うのです。誤嚥性肺炎とは、口腔内の唾液や細菌が誤って気道に入り込むことでおきる肺炎で、夜におこりやすくムセなどの自覚症状がありません。また嘔吐によりおこることもあります。食前・食後の口腔ケアと食事中の誤嚥防止が大切です。専門的口腔ケアを実施した場合は、しなかった場合に比べ、2年間の肺炎の発生率が40%減少し、口腔と咽頭の細菌数は5ヶ月で1/10に減少しました。また要介護者の検査で嚥下するまでの時間が口腔ケアによって改善しました。口腔ケアは介護の予防のためにも大切です。

 

8020と歯ならび

歯ならびは、歯の寿命に影響します。80歳で20本以上の残存歯がある方の咬合状態の割合は、次の通りでした。正常咬合 56% 上顎前突 44% 反対咬合 0%  叢生(ガタガタ)0% その他の不正咬合 0%。ただし、上顎前突のうち、かなりの割合の方は歯のすり減りなどで、年齢とともに徐々に上顎前突になってきたもので、若いころは正常咬合だったことが予想されます。つまり歯ならびが良くないと、8020達成は困難だとわかりました。これには、ムシ歯や歯周病の罹りやすさ、咬合の荷重負担、口呼吸など、さまざまな要因が関係しています。

 

8020とイキイキ生活  

厚生労働科学研究で、残っている歯の数が多く、食べられる食品が多いほど、社会活動、人との交流、意欲などが活発であることが報告されています。日常生活の満足度と咀嚼能力の関係も深いです。そして高齢者の日常の楽しみを聞くと「食べること」が必ず回答の上位を占めています。寝たきりで全く表情のなかった高齢者に口腔ケアをしたところ、表情がもどって明るくなったという介護現場の声も、口の健康といきいき生活の関係を物語っています。健康寿命をのばしQOL(quality of life)を高めるために、8020をめざしていきましょう!

 

口が弱れば身体も弱る 

最近、滑舌が悪くなってきた、食べこぼし、飲み物にむせるなどが現れたら、それは全身状態の悪化の前ぶれかもしれません。最近話題の加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)や運動器症候群(ロコモティブシンドローム)と、歯・口の機能低下との関連が明らかになってきました。「歯の本数」や「食べこぼし、むせ」「かむ力」「食事の量」が、全身の筋肉量や筋力の低下、運動機能の低下と強く関連しています。口の機能低下(オーラル・フレイル)で全身の問題を予知し、バランスの良い食事と歯・口の定期的な管理でこれを予防していくことが、健康長寿につながるのです。

 

8020は小児から  

ロケットは地球の重力をはなれるまでのわずかな時間の噴射と方向づけが、その後の何十年、気の遠くなるような距離の宇宙旅行を成功させる決め手です。同様に、こどもの1年はおとなの10年以上にも匹敵します。流れる時間の質がちがうのです。あかちゃんの成長は驚くほど大きいですね。3つ子の魂百までも、といいますが、心身の成長、生活習慣、身体の動かし方、味覚の形成、呼吸のしかた等々すべてが小児期で決まります。妊娠がわかった「マイナス1歳」から8020をめざして、こどもの口の健康を育てていきましょう。

  • 2017/04/19
  • 8020をめざして